2020年10月

透かし見る雪舟 Layer of SESSHU

2020年10月29日-paper-cutting 切り絵

sesshu0web2
Artist in Residence 3-20 October 2020 at Akiyoshidai International Art Village
It was very fruitful 18-day AiR. Thank you very much for huge supports by Akiyoshidai International Art Village! There were many lovely encounters. I hope this historic location Unkokuan will be in the light from now on.
雪舟画室雲谷庵跡での展覧会を企画して、秋吉台国際芸術村のAiRフェローシッププログラムに応募したのは昨年末。そのときは今年2020年が雪舟生誕600年に当たるとは知らず、採択の通知を頂いた後資料を読む中で知ることになり、その瞬間座椅子から3センチばかり飛び上がりました。
応募のきっかけは昨年、雲谷庵跡に初めて訪れて、茅葺屋根の小さなかわいい庵に魅了されたこと。これまで数回日本建築での展示を重ねてきた経験から、この建物で展示をしたらきっといい表現ができるとそのときに確信していました。それともうひとつの出会いが理由でした。雪舟庭常栄寺に訪れた折、境内の山の上の方に御堂があり、そこまで登ったのは私一人・・・と思っていたら先にお一人、お経を上げられている方がおり、その方が益田市の雪舟庭医光寺麓に窯を構える「雪舟焼」二代目の福郷徹さんでした。お話を伺うと京都で修行をされていたり、不思議なご縁がありました。その後文通をさせていただき、このことにも背中を押されて応募しました。
生誕600年という大きな節目の年ということで、思いもよらず山口県や山口市の関連事業としていただき、テレビや新聞などのメディアにも取り上げられ、想像以上にたくさんの方に知っていただくことができました。
昨年訪れたときには人気も少なく、雲谷庵跡も寂しそうでしたが、今回の展示で多くの方が訪れて、建物が生き生きしていたように思いました。
管轄する山口市文化財保護課の職員の方にも、これから活用していきますとお声掛けいただき、当企画の最大の目的が適ったと感じられ、とても嬉しかったです。
もう一つ、個人的な目標であった墨で描くことへの取り組み。これも企画が通ったからにはとにかく墨と筆と仲良くなろうと、5月に破墨山水図の模写を始めました。数日続けるうち、これは毎日描けるな、100日いけるなと、下手でもまずくとも一枚は描こうと描き続けました。8月の初旬と目処はつけていたのですが、たまたまその数日前に雪舟に関する論文をオンラインで読んでいて、そこに、江戸時代の文献がソースで現在は否定されているものの、8月8日が命日であるという説が一時あったと知りました。まさに、その日が100日模写の達成の日でした。さすがに震えました。
模写をするために毎日筆を持ち墨を擦る習慣ができ、ドローイングも並行して行っていました。墨と筆については、中国と日本の違いを大阪の丸山雄進堂さんで教えていただきすごく面白かったです。
ガラスのひび割れという個人的に惹かれるモチーフに出会うことがでたため、CRACKSという題で300枚ほど描き、その一部を芸術村の窓ガラス越しに景色を見ることができる空間に展示しました。
切り絵を始めて20年、切り絵の下絵のため以外に絵を描くということができなくなっていて、それを克服することが、今回の企画の個人的な面での目的でした。
まだプラクティスの段階で、自分の創作の中でどのように取り扱っていくかはこれからの課題ですが、その端緒を掴めたことは大きな達成でした。ライフワークとして取り組んでいきたいです。
それと坐禅。禅僧雪舟もすなる坐禅というものはいったいどういう感覚なのかと知りたくなり、京都の工房の近くの建仁寺両足院の坐禅会に春から参加しました。
そのときに感じたことが、五感の贅沢さでした。目が覚めている間はフル稼働している視覚が一時休止状態になるからか、普段隠れがちな他の感覚が浮かび上がってきました。
なかでもこの間、坐禅をしていない間も、意識が向いたのが嗅覚です。その中で、作品に取り入れたいと思ったのが「墨の香」でした。今と違うにしても、雪舟も日々嗅いでいたであろう墨の香。
その香りを雲谷庵跡に再現したいと思い、会期中会場に香りを漂わせ、これもインスタレーション作品の一部としました。
興味深かったのが、人が少なめだった日は、訪れた方の多くが「墨の香りがする?」と気が付かれていたのが、にぎやかな日は気づかれる方は少なかったのです。やはり、人間の情報判断は視覚や聴覚が先に立ち、嗅覚は落ち着いた状況になってからやってくるのかなと想像できました。
メインの切り絵作品は、雲谷庵跡で描かれたと推定される「四季山水図(山水長巻)」の一場面。描かれた岩や洞窟の構成に従い画面を5分割し、5点の切り絵でひとつの場面になるように奥行きをもたせて配置しました。
雲谷庵跡の障子を開けて景色も透かして作品に取り入れることを想定して、透ける布に切り絵を貼り仕上げました。切り絵に使った紙は和紙で、自分で墨で染めたものです。彫っている最中、この紙も墨の香りがしていました。
主題は二人の男性が洞窟の中で親しく語らっている場面で、16メートルの画巻の中で最も好きなところです。友と対面して言葉を交わし心を通わせる喜びは、他の何にも代え難く、時代も地域も超え、人間に共通する感覚だと思っています。そのことを雪舟もよくよく知っていたのだと思いました。
その場面を透かした作品にし、穏やかな風に吹かれる様子をみなさんと雲谷庵跡で見ることができたことは、忘れがたいひとときです。
生誕600年は偶然でしたが、彫っている間、これは雪舟さんへのお祝いだなと自然と思っていました。この作品は今後他の場所でも展示していくことになりますが、初めての展示をこの年この場で行ったことが、この作品の持つ最大の意味になりました。
香りもそうですが、目に見えない事象をも取り入れながら作品にしていくことに、これを機に関心が向かっています。
景色を透かして見る、場所の持つ意味、時代を透かして見る、ひとりひとりの心を透かして見る。
それぞれの見方を見つけて、新たなレイヤーを重ねて見ていただけたらと願っています。
秋吉台国際芸術村の皆様には本当にお世話になりました。ご縁をいただいた皆様ありがとうございます。
また山口でお会いできますように。
雪舟さん、生誕600年おめでとうございます。