2022-05-30

Fuso 扶桑


Fuso
2022 paper-cutting Echizen Washi(by Ichibe Iwano), gold leaf, Japanese ink 72.8×51.5cm
Fujikawa Kirie Art Museum collection

扶桑
切り絵 越前和紙(岩野市兵衛氏作), 金箔, 墨 72.8×51.5cm

富士川・切り絵の森美術館蔵

扶桑、受け謝し、日、宇宙を照らす。『淮南鴻烈解』


・作品解説
古来、生命樹や宇宙樹と呼ばれる樹木にまつわる神話や信仰が世界各地に存在する。「扶桑」は古代中国の神話に登場する東海に生えているとされる神木で、十個の太陽が水浴びをして穢れを祓い、その枝に昇り天を巡行し、西に沈み地下の水中を通って禊ぎをし再び天に昇るという、没してまた再生を繰り返す「復活再生」の思想を表すとされる。
古代の文明では、様々な図像は、描かれた世界が実現するという呪術的な思考のもとに描かれた。現代においても、人々はお守りや縁起物など、図像に願いを込める。祈りという人間の精神から生まれる行為は、時代や場所の違いを超える普遍的なものだということを、数千年の時を経て伝えられた遺物を見て実感する。
その実感をもとに、この作品には漢代の画像石に描かれた扶桑樹を中心に復活再生と陰陽和合の循環の思想を表すモチーフを散りばめた。渦巻く風の形の鳥、弓射する英雄、睡蓮、太陽を運ぶ大亀。陰陽説では、天地の気=陰陽が和合することにより働く力が「徳」とされた。「徳が草木に及ぶと、木は連理する」その姿は枝が絡み合う扶桑の形状に見出せる。
また、今回の制作では単にモチーフを描くだけでなく、素材と構造自体が思想を表すように構想した。越前和紙の重要無形文化財保持者(人間国宝)岩野市兵衛氏の手漉き和紙を地色を残して墨で染め、陰陽(天地)のグラデーションを表し、神木は画面下から立ち上げ編み込み、天と地がつながるように固定した。太陽を象徴する部分には金箔を貼り光を反射する。
自らの手をもって描き紙を彫る作業を通し、目に見えない魂の在り方を感じとることが自身の制作に通底するテーマであり、本作品においても、人間の根源的な精神性を掘り起こし再創出することを目指した。

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